多情好色の女 ─かかる女を恋人に持つなかれ。─ ―そは愛を他に移す故なればなり─

一、瞳が何となく浮いて光沢をもつ女あり。

一、眼の下が口ヘかけてこけてゐる女あり。

一、瞳の下の水瞳の強い女あり。

一、眼の周囲の牡丹色の様なる色沢の女あり。

一、顔の白粉の粉の吹いてゐる様な女あり。

一、肉のだぶついた肉感的の女あり。

一、皮膚が滑らかで光沢のある女あり。

一、顔にソバカスのある女あり。

一、眼尻及び眉毛の下つた女あり。

一、話をせぬ前から笑ふ女あり。

一、手や顔をふりふり話をする女あり。

一、光顔の女あり。

一、口唇の自づから動く女あり。

一、眼の周囲に筋の多い女あり。

一、色の黒ずんだ女あり。

一、眼に白味の多い女あり。

一、外輪に歩く女あり。

一、頭を下げて横眼を使ふ女あり。

一、横眼及び見ぬ振りをしてみる女あり。

一、独言を言ふ女あり。

一、出尻胸高の女あり。

一、肩のこけた尻の小さな女あり。

一、口の周囲に肉のある女あり。

一、言葉の中に途切れの多い女あり。

一、前額の中心に出た女あり。

一、生白い歯の女あり。

一、口唇の青い女あり。

一、口唇の赤くなく薄い女あり。

一、歩き乍ら身体を振る女あり。

一、馬の啼くやうな笑ひ声の女あり。

一、頭の大きな頭髪の少ない女あり。

一、大腿に肉のない女あり。

一、腰が出てゐる女あり。

一、浮はついた話をする女あり。

一、出尻で顎の小さな女あり。

一、雀の歩くやうな歩き方をする女あり。

一、人を見て顔を掩ふ女あり。

一、柳腰の女あり。

一、耳の肉の薄い女あり。

一、他人の蔭で首を縮めて舌を出す女あり。

一、爪を噛む癖の女あり。

一、顔の割合に眼の丸い女あり。

一、頭を先きに出して歩く女あり。

一、よく振り返へる癖のある女あり。

一、一言葉毎に腰を伸ばす女あり。

一、座つてゐて種々に腰を変へる女あり。

一、色あくまで白くして、而も頭髪の濃く多量の女あり。

一、唇をなめる癖の女あり。

一、前額の広くて生へぎはの濃い女あり。

一、身長の割に首の短い女あり。

一、鼻の胡座をかいてゐる女あり。

一、眉毛の両端に皺を寄せる女あり。

一、指の比較的短かい女あり。

一、富士額の女あり。

一、直立して身の片寄る女あり。

一、縮れ毛の女あり。

一、寝言を言つて泣ぐ女あり。

一、鼻毛の生える女あり。

一、乳の大きなる女あり。

一、出歯の女あり。

一、赤毛の女あり。

但し以上の如く列記したれど、恋人として温良閑雅な女あり、妻として良妻賢母たるあり。右は大略を記したるに止る。周章狼狽して、その恋人と絶ち、愛妻と別るべからず。