漢にては放屁といひ上方にては屁をこくといひ、関東にてはひるといひ女中は都ておならといふ。其語は異なれども、鳴ると臭きは同じことなり。その音に三等あり、ブツと鳴るもの上品にして其形円く、ブウと鳴るもの中品にして其形飯櫃形なり。スーとすかすもの下品にて細長くして少しひらたし。是等は皆素人も常に放る所なり。彼放屁男の如く奇々妙々に至りては、放らざる音なく備らざる形なし、抑いかなる故ぞと聞けば、彼が母常に芋を好みけるが、或る夜の夢に火吹竹を呑むと見て懐胎し、鳳屁元年へのえ鼬鼠の歳、今を春辺と梅匂ふ頃誕生せしが、成人に随ひて段々功を屁ひり男、今江戸中の大評判。芸は身を助けるとは是ならん歟。讃岐行脚無一坊。神田の寓居に筆を採る。