眼を病つた男、神仏に願をかけたが捗々しく治療らない。困り切つてゐるところへ、家伝の妙薬を得た。早速木版刷の効能書を、ズーツと一通り読んで行くと『めじりにさすべし』とある。それを文字通りに読めば事は無かつたが、木版が大分痛んでゐた為『めじり』の『じ』の字の濁点が磨滅してゐた。そこで『め』を『女』のとよみちがへたから堪らない。
『女しりにさすべし』
ハテ、不思議な薬の用ひ方があるものと思つたが、とも角、女の尻にさして見ようと『厭がる女房を漸く説き伏せて、笑ひ事ぢやない、身の功徳になることだ』とあつて、クルリ裾を捲らせ、細君のお臀の穴に件の粉薬をさそうとする、動機に、女房苦しくなつて、プーツと一つ。其の拍子に粉薬は勢ひよく吹飛んで、グツと見開いてゐた主人公の眼の中にけしとんだ。
「はゝあ、なるほど斯うしてさすものかい。』