ひどく潔癖な男があつた。
どんなに惚れぬいた女に対しても矢張りその癖を発揮した。
ある夜、自分の惚れぬいた妓と寝ることになつたが、妓が玄人だつたので、不潔でないかを疑つて、身体中を洗はした。
そしていよいよ床にはいる前に、男はいま一度、手で以つて女の頸から足の先まで撫でさすつて、一々嗅ぎまはした。
或る所になると、さらにまた洗はした。
そんな事を三度四度と繰り返してゐる内に、とうとうその一夜は東の空からあけそめてしまつて、目的を達する事は出来なかつた。