ある可き所に何故毛がないか ─毛のなき女性の悲劇の種々─

無毛の女を嫁に貰ひ又は、之に接する時は、不運をまねくなどと迷信的にいひ伝へられてゐる。恐らくそんな事はあるまいと思はれる。

然し自ら×部の××を抜きとる種類の女性がある。これは殊に××を商売にする女郎に多い。

その原因は××によって不慮の傷害を引き起し、又は毛虱などの発生をふせぐためである。

然し毛がないために、古来いかばかり妙齢の女性をして煩悶、懊悩せしめたか知れない。

顔形がさほど醜くない女が、嫁いで二三ヶ月間に離縁になる場合が往々ある。そうして一生嫁がずに押し通して了ふ女がある。

その原因については種々あらう。

曰く家風に合はない場合、曰く夫婦間の愛情がない場合。曰く性的不能者の場合。と数へるなかに毛がないための理由によって、離縁せられた女が決して少くない。

ある可き所に毛がない─といふ事は一種り不具者扱ひせられても致し方がないのだが、不具者と銘を打つにしては、あまりに滑稽すぎる、これはむしろ、男性の好奇心といふか、自己不満のために、これ幸と許りに離縁にして了ふのである。これなぞは男性のあまりに虫のよすぎた行為でなくてはならぬ。

仲にはそうした毛のない女を迎へて、家庭円満な御夫婦も頗る多い。或る産婆の説では『百人中に三人位の割で毛のない方がございますよ。』といつてゐた。毛のない理由については不幸詳かでない。

こうした不幸な女性が、自分の不具を恥じて、それを両親に打ちあけもせず一生独身に打ちすごして、やがて悲観の極、悲惨な死をとける人がある。

『小町娘謎の死』

なんどと題して品行方正なオールドミスが鉄路を血ぬる事があるが、これなども、そうした、世人が殆んど気のつかぬ所に原因が秘められてはゐまいか?

それについてこんな話がある。

ある若い女が毛のないのを苦にして入浴の際にしやぐまをはさんでゐたのだつたが、どうかした拍子にひよいと、公衆の面前の洗い場に落して大いに赤面したといふ事をきいた。それほど女性の苦患の種となつてゐる。

従ってこうした女性の方々の弱点をとらへて、

『ある可きところに毛のなき方』

なんといふうまい広告文句で立派に店を張つてゐる商売上手もゐる

最近では、又『貼り毛』と称するものを、この毛生へ薬の代りに売出してゐる。これなぞもある種女性の弱点を巧に利用したものである。

その広告文に曰く

『婦人として御両親やお友達に話しの出来ないお気の毒な事は毛の無い事です。殊に浴場に参りました時に真実に気まりの悪いものです。この悲しみに小さな胸を痛めてゐる婦人が何万人あるか判りません。そうした御婦人の為めに、数年研究を重ねて漸く完成したのがこの義毛(一名精花)です。毛生へ薬などと違つて生へるかしらと気をもむ事はありません。

完全に消毒した撰毛を一本づゝ植へて調製した品ですから自然に生へたのと少しも違はないやうに出来て居ります。之を着液で貼るのですからお湯に入っても洗っても離れ落ちる事はありません。

どうぞ御安心の上お試し下さい。

恥しい思ひも、きまりの悪い思ひも、此の義毛に依って無くなる訳です。

然しこうした貼り毛が、一面に於いてそうした不具の女性を救ふとすれば、これ又結構といふ外はあるまい。