さりながら、女の身のあさましさ、心のまよひゆえか、飛鳥川のならひなれば、もしやうつろふいろもあらんかと、御心の秋風を、まだ見ぬさきよりもきづかはしく思ふも、にくからぬにや。たとひ御げんのたえまに七夕の逢瀬を、二人がなかになすとても、へだてるなかの天の川、こなたの心はいかでかはらん。申しまゐらせ候ことも、くひてあまたのおほぬさの身なれば、いつはりがましくも思しめし候はんかとくちをしく、もとよりうき舟のよるべなぎさによる波の、たつともなき流れの身ながら、心まではさうしたことにはなう候。しかしあはぬ行末ながら、心のたけをもくらべては、いかなる立居につけて、思ひわするるひまも なう候。死んでしらぬ昔しのぶよりほかなく侯。申したきことかさなる山ながら、筆とる言の葉をつくす、はやざつとめでたく候。かしこ。