おなじく(高尾の手紙その3)

見てもなほみまくのほしければ、なるるを人はいとへとは、よう申しまゐらせ候。けふははや御なつかしく、侍りし夕の心づくしはものかはせめてあらましの墨の色に、かくとばかりのうきふしをも知らせ参らせたく、珍らしからぬことささげまゐらせ候、いよいよその夜にかはらぬ御ようだい、御かへりはても御首尾よくおはしまし候や、これのみとはまほしく思ひまゐらせ候。まことにすぎし夜は、たえだえの御けはひにうちむかひ、御嬉しさのほど、日の本にはたとへん山もなう候。しかし逢ふうれしさに心せかれて、日ごとつもりしことの葉ものこりがちにてきぬぎぬの別れしあとは悔むよりほかなく侯。たとへば、秋の夜の千夜を一夜にかさぬとも、いふ言の葉はいかでつきなん。まして鳥をかぎりのうき契り、今かたどきと存じ候へども、かへりてまた御ためを思はぬにてもはべりなんかと、とむる心もいかうおくれをとりまゐらせ候。手枕のすきまをだにいとひまゐらせ候に、夜さむの夜、さぞお身に、いたいたしうあたり候はんと、はがひも永きみちのほどうとましさ、たがなすわざにやと、思へばおもへば罪はこなたにこそと、我が身ながらも憂きものに存じまゐらせ候。なほさらいねもやらず、ひとしほしほ心もすみ候へば、人をとがむる犬の声かすかに耳にふるゝも、もしやそなたのかたにやと、御跡をしたふ名残りおしはからせ給へ。さてもたがひに申しかはせし言の葉、御わすれあるまじく候。こなたとても繰りことながら、我れ我れことは君にまゐらせ候身なれば、いや行すゑかけて頼む、このほどまかぜにはなきと申すものにて候。もちろん御じよさいなき仰せのうへは、このもしうぞんじまゐらせ候。かしこ。

高尾

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