寅の時

まくらがみにひゞく鐘の音は、あさくさでらのにや、などたどるほどに、例の中やどりがもとなる男の、灯ともして屏風の間より顔さしいれて、御迎へにまうきつといふ。まだきにいそがせたまふべしやは、とふしながいふ声いとわふたげなり。いなつとめてなにかしどのゝ館に、ようありてめさせたまふなり、おそくはびんなからんといひつゝおき出れば、みたちに出させたまはんよりは、北の方の御いさめこそおそろしうおぼすらめ、とくいそがせたまへなどいふも、いとわたげなるしりめなり、とかくして、廊下のいたじきふみならしつゝ出てゐぬ、まろは、むねいたければおくり聞えずといへば、ゆゆしき事、湯まゐりてはやうさはやぎたまへなど、打見かへりつゝいふも、あさくはあらぬこゝろなるべし、

すみだ川すみわびぬらしうかれめの、うきせながらにながらふる身は。