酉の時

たそがれのころ、わらはの枯子の内にたちて、さしむかひ家のあきびとをよびて物かふとて、玉かひなる人々と、こゑあげてよぶもうつくしげなり、又おなじやうなるわらはの、あかつきたる衣きて、つゝみにつゝみたるものわきはさみて、はしるは何事するにか、かの伊勢のごの、銭に代りゆくとよみけんやうのわざするにやあらん。をのこのかうしのとにたゝずみて、内なる女と打さゝやくあり、一に山鳥の心地やすらんかし、中のまに伊勢のおほん神をまつれる所あり、しも男の来て、鈴うちならせば、あそびらばみなあるかぎり格子のよにゆきてゐならぶ、かの男は、おまへのみ灯しを物にうつして、格子の間の袖つぎにともしつく、横座にすはりたるは、やことなきほどなるべし、壁には鳳といふ鳥をゑがきて貼したり、この町なる女ばらは、此壁にせなかおしつゝ群集りをり、まがきのきはにならびたるは、それよりもおとりのかたにや、此女ばら清掻たかうひきならす、大略には許多の人さまよひて、かうしのひまよりのぞく、灯みつよつしもしもしつらねて男の袖をひかへて、女ばら打まじり、そゝめきさうどきて入りくるなど、にぎははしきこといへばさらなり。