午の時

おくまりたるかたの部屋にいりゐて、おのおの化粧しみがきさわぐ。わかきは衣櫃長持にうちたるかなぐなどみがく、物の蓋に花の枝繁つみもてきて、部屋ごとの花瓶にさしぬるは、花うる男なるべし。紅白紛いもの元結櫛扇など、いとふさに箱にいれてもてきてうる人あり、医師にや、あらん。ことやうなるいろの衣きて、顔もち尤々しきが、おくなるつぼねにいりきぬ。屏風のうちには、いろは真青にしろくあをみ袞へたる女の、ほそき紐してひたひのあたりひきゆひてふしをり、くすしちひさき綿に膏薬といふものをぬりつけて、屏風のうちにいりて、ふたゝび出来て、異状もなかじなぞいひて、咳嗽うちしてかへりぬ。いかなる病にかあらん。いとほしげなり。はしらによりゐて、文かく人あり、手はよしやあしや、さながら蚯蚓の纛めくやうにぞ書いなしたる。客人のもとよりおこせし文にや、うちひらきよみ見て、ものしきけしきに眦ひきあげて、何事いふぞ、をこなりや、かゝることたれかはしらんなど、声だかに踞いへるは、何ごとゝはしらねど、おもふにたがふことにこそあらめと、かたはらいたし。