今ぞ家の内やうやうおき出てののしりさはぐ、海にとりたるもの、山にほりたる物、いづくよりもてくるにか、になひきてあきなふ。家あるじ漆の板に、よべの客の数しるしたるをとり出て、物にかきつく。妻はこなたにゐて、煙り草くゆらしつゝ、何くれのことども、人にをしへてまかなはす。からうじて、遊女どもおき出て、ひととろに挙りゐて、朝食くひて、さて湯槽にいりひたりて、口々さへづりあへり。さるあまたある遊女どもなれば、心の趣もおのおのいとことなり、物まめやかにつゝましく、こめいたるもあり、又もてひがめたることのみいひて、おぞましく不良なきもおほかり、互に、ゆぶねの口にかゞまりゐて、垢掻きながしつゝいへることよ、つかさのこそなん、けさはいといぎたなかりし。思ふ人にこそあひ給ひつらめといへば、あらずわかい男なるが、よろづさし通いて、詞おほくなもとなるは、鼻ひらめにひたひはれて、腋臭さへ花やかなる老人なりき。されど老らかにもてなし待遇ひてかへしゝは、人がらのにぎはしく、たのもしげなればぞかしと、いひてたかやかに笑ひて、ゆかたびらないがしろにうちかけて、つゝむべき所もおほひだにせず、立はしりつゝいぬる、いと鄙陋なり。又いりくるもおなじ筋なる陰言のみいふめり。いとかしまし。