物乞ふ法師ばらうちつれて、鉢々とよびつて来、厭かしげなるなる桶さし荷ひて、きたなげなる男どものいりくるも見ゆ。物ぬふ女の、ちかきわたりにすめるが、つゝみひきさげてくるもあり、髪つかぬる男にや、たすきひき結ひて、いかめしき櫛笥ひきさげて、いそがしげにはしりありく、わかきあそびどもは、猶よべのまゝにて、夢路にはあしもやすめぬにや。鼾はなやかにかきて、あらぬ寝言をさへいふなる、夜ひとよかたらひあかして、こうじけるにや、けさも猶かへらで、やがて眠臥る客人もあるべし。男どもは部屋々々はさらなり、廊どのくりやの板敷など掻掃き拭ひなどす。大門をはなれて、ながき堤みあり。その下にいささかの町あるを、孔雀長屋といふ、輿かくものどものすみどころなり。今戸の橋のあたりには、船宿の家ども、のきをならべてたてり此わたりは、いづれもよのつねのごとく、このほど朝食など炊くめり。