曉ぐれのそらの麗々しきに、門の戸のごほごほとなるは客人のかへるにやあらん。遊女どもは馴けたる衣のすそひきかゝげて、あわたゞしくはしりきて、戸の口にたゝずみたちておくりす。わきてしたしうせるはひきつれて、中揚屋の家にいたりて、酒くみかはし、かゆすゝりなどして、さて大門のもとにいたりて、別るめり。寝乱れのあさ顔、見るかひありなどおもふも、こゝろのなしにやあらん。やうやうあけゆくほど、許多の人ども、いろいろの衣どもきたるが、こきまぜにいで、いそぎゆくあしもと、ねぐらをはなるゝ鳥にもおとらず、竹輿かくものゝ、欠びうちして、あまたならびゐたる、こゝろもとなげなり。こゝに柳ひともとたてり、見かへりの柳とぞよぶなる。糸による物とはなしになど、うちながむる人もありぬべし。門のうちに、女ばら五七人、物にかくれてたゝずみをり、さるはたのめし人の、よそ人にうつろひぬるをにくみてぞのむくいせんとて心待つなりけり。男はかうとだにしらねば、悠々とあゆみくるを、不意にはらはらと出きて、ひきとらへてゐてゆく、ゆかじと争へど、あまたしてしたゝかにつかみかゝりぬれば、すぐなくて、手まとひしつゝおめおめとなりてひかれつゝゆく、ゆききつきていかにかすらん、おほつかなし。