吉原十二時

この『吉原十二時』は石川雅望の著である。雅望は博学多識、古学に志して、其著も三十余種を数へられる。又狂歌を嗜み『宿屋の飯盛』といふ狂歌のペンネームをもつてゐる。天保元年七十八歳にて歿した。

この『吉原十二時』は当時全盛を極めたる吉原の情景を巧に描写して当時の面影をしのぶには唯一無二の参考書である。この道の粋士は、現時の吉原と、当時の吉原とを比較せられゝば、其処に又別種の趣があるであらう。

本文は主として平仮名で書かれてあるために、そのまゝこゝに移すことは、意味の不明瞭を来し、且つ読む人の判読の不便も多いから、要所々々には漢字をあてゝ更に其の意味を一層判り易くするに努めた次第である。