江戸吉原開基の祖

吉原開基の祖といふのは、庄司甚右衛門である。

生れは相州小田原。父は北条家の家臣。天正十八年、小田原落去の砌甚右衛門十五歳の折、折節病気のため、家来の介抱によつて江戸に出で丁度柳町の知辺を頼つて居を定め、遂に傾城屋となつたのである。

それ故身分を耻ぢて、一生父の名字を明さなかつといふ。但し甚右衛門の姉をおしやぶと云つて、北条氏政公の寵妾となつてゐたと云ふから、さほど身分の賤しい者ではなかつた。

因にこの当時の吉原といふのは、現在の京橋区柳町の辺にあつたのをさして云つたのである。その後現在の吉原に移転したのである。